「悪魔判事」 악마판사 2021年 tvN
★★★★☆
公開裁判、国民投票で判決するという現実離れした物語設定ですが、あまり違和感もなくすぐに引き込まれました。法廷ドラマと思って見ていましたが、最終的には復讐劇とも言えるのかな。ロマンス色は薄い仮想ドラマです。
展開は最後まで緊迫感、スピード感、そして迫力もあり、次から次へと立場が反転するハラハラドキドキが続きました。話数も少なめなので、集中して飽きることのなく見ることができました。中だるみも感じませんでした。
裁判官ヨハンの判決は胸のすく思いだったし、本来は皆が心に隠している本音を代弁してくれているようでした。
理不尽な悪に対する怒りや絶望感などをどう咀嚼して消化したら良いのか・・深く考えさせられる重いテーマでもあります。
残酷だと感じるシーンもあったのですが、全体的に落ちついて見られました。
OSTもドラマの雰囲気に合っていたし全体的にまとまった作品だと思いますが、進むごとに現実離れしすぎて、社会派ドラマとはかけ離れてしまったことが残念でした。
カン・ヨハン(チソン)=部長判事、公開裁判の裁判長
キム・ガオン(ジニョン)=陪席裁判官
オ・ジンジュ(キム・ジェギョン)=陪席裁判官
チョン・ソナ(キム・ミンジョン)=社会責任財団常任理事、ヨハン家の元メイド
ユン・スヒョン(パク・ギュヨン)=刑事、ガオンの幼馴染
ミン・ジョンホ(アン・ネサン)=ガオンの師、大法官
初の国民公開裁判が始まった。裁判長は罪人に厳しいことで有名な判事、カン・ヨハン。この裁判は生中継で公開され、国民投票によって判決が下される。
この公開裁判で陪席裁判官を務めるため判事のガオンが赴任する。
最初に扱う事件の被告は工場の廃水で河川を汚染し多数の死者、被害者を出したとされる大企業JUケミカルの会長だ。
大法官のミン・ジョンホはこの公開裁判を快く思っておらず、教え子のガオンにヨハンを見張らせる。ガオンは公開裁判で陪席を務めながら、何か裏があるのではとヨハンを疑っていた。そして彼の部屋を盗聴するとヨハンへの疑いはさらに強まった。
JUケミカルの会長に対し殆どの国民が殺人罪を支持する中、ヨハンの下した結果は「故意の殺人とは認められず、業務上過失致死で有罪」というものだった。
この判決に国民の間には落胆が広がったが、ヨハンは被害者の人数で合算すると宣言し禁錮235年を言い渡し喝采を浴びた。
しかしヨハンへの不信感を拭えないガオンは彼が証人に偽証させたのではと調べ始める。
以下ネタバレあります。
謎めいた登場人物ばかり、皆怪しく見えました。予想外の展開が続き面白かったです。敵なのか味方なのかわからず、事あるごとに驚かされました。
キャストも演技派揃いで魅力的です。俳優がそれぞれの人物の個性をうまく表現してくれていたので、一人ひとりの人物がとても鮮明に頭に残っています。
その中でも敵役ソナの底しれない不気味さや邪悪さ、満たされない心をキム・ミンジョンが上手く表現していて印象的でした。
それから刑事のスヒョンの可愛さ、そして正義が心に残りました。
裁判を国民投票で、そしてショーのようにしてしまうという斬新な発想。仮想の話でありながら、もしかしたら近未来的にこんな事もと思ってしまう内容でした。
弁護士も検事も判事も権力に丸め込まれて裁判が不公平なものになるなら、国民を味方にして正義を貫こうという考えは有りのような気もしました。
ただ、悪者(権力者)の悪事が本当に許しがたいものだったので、ラストは短絡的な解決方法で少し違うなぁと感じ、スッキリ痛快では終われませんでした。
私はまた100叩きの刑なんていうのを期待していたんですけれど。
◆カン・ヨハン=悪魔判事(チソン)
ヨハンは過去の出来事から悪魔と言われ続けて孤独の中にいます。人の偏見や思い込みは怖いですね。
そして判事でありながら裁判は「正義でなはい、ゲームだ」と言い切り、その進め方を見てもいかにも怪しく映ります。
悪者を断罪するそのやり方を見れば怪物扱いされても仕方がないと思いますが、それでもチソンが演じているので私は悪魔とは思えなかったです。それこそ裏があるだろうと思いながら見ていました。
常に世の中の理不尽と戦う姿勢はかっこ良かったのですが、ある意味兄夫婦の復讐のようにも見えました。
ヨハン=ヨハネなら・・イエスに洗礼を授けたヨハネなら預言者、使徒ヨハネなら聖人ということになりますが、なにかイメージしているんでしょうか?
エッジ効きすぎのヨハンでしたが、ガオンとの関係でだんだんと溶けていく様子にホッとしたりしました。人の温もりの大切さを改めて思いました。
エリヤと一緒に穏やかに過ごして欲しいです。
それにしてもヨハンの家のゴージャスさには驚きました。大富豪ですね、狙われるわけだわ。
◆チョン・ソナ(キム・ミンジョン)
ラスボスと言っていいでしょうか。多くの権力者を操りヨハンの敵となる人物です。
ソナの過去も悲惨なものでした。その自分の運命が悔しくて仕方ないのでしょうね。運命の不公平が身にしみていたのだと思います。そして人の心に潜む欲望や野心や弱みを利用して登りつめました。
その過程が描かれていないので、どうやって今の地位にたどりついたのかわかりませんでしたが、人を操る奸計の才能を持っていたんでしょう。
でも、本当にヨハンを愛していたようだったので少し切ない気持ちにもなりました。何をしても満たされず、引き返す事もできなかった彼女の人生を思うと気の毒でもあります。
それでももともと邪悪な人間の雰囲気が出ていたのは、キム・ミンジョンの流石の演技でした。
◆キム・ガオン(ジニョン)
まだ若く、青臭さがよく出ていました。ヨハンを信じきれず揺れの大きい人物でした。
ヨハンと同じ屋根の下で暮らして理解を深められたかというと、むしろ混乱したようでした。それでも家の中が和んで行くのを見れば、ガオンがヨハンの家に足りなかったものを補っていたのは間違いないです。
始めはヨハンのやり方に反発しつつも、信じていた人にも裏切られだんだん正義とは・・と苦悩したと思います。
そして悪を一掃しても何も変わらない現実にどう向き合っていくのか・・次のヒーローになるのか・・彼がどういう道を選ぶのか興味が湧きました。
泣き虫のガオンは可愛かったです。肩をよしよし・・としたくなりました。
◆ユン・スヒョン(パク・ギュヨン)
どんなときでもまっすぐな人でした。立場はどうあれ犯罪は犯罪という彼女の言葉が重かったです。
どんな悪人を裁くのであれ、そこに不正があればそれは犯罪だと言い切り少しのブレもない正義感の持ち主です。
だからこそ愛するガオンが道を誤ることを必死に止めました。そのため彼とだんだん距離ができてしまい、ギクシャクする2人にハラハラしました。ガオンの救いは彼女でしたから。
彼女が命をかけたからこそガオンに見えた真実があり、スヒョンの死はストーリーの中では必然だったのかなと思いました。
主要の4人だけでなく、登場人物はそれぞれパンチがきいていて印象深かったです。
様々な事件や問題が一つの陰謀に繋がり、本当の悪があぶり出されていく過程は展開に矛盾を感じることもなく面白かったです。
強いて言えば、最後が感傷的でなんとなく中途半端な終わり方だったような気がします。それでも予想していたような悲劇的な最後ではなくホッとしました。
変わらぬ現実を突きつけられたガオンの前に現れたヨハンは幻?帰ってきてほしいというガオンの願いだったのでしょうか。それともヨハンからのエールを感じていたのでしょうか。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
では、また。