「赤い袖先」 옷소매 붉은 끝동 2021年 MBC
★★★★☆
ドラマとして今一つ盛り上がりを感じられず、面白いとはあまり思えませんでした。期待が大き過ぎたせいかもしれません。それでも後半に入って揺れる心の描き方や主演のジュノの演技がとても良かったし、振り返ると深いドラマだったと感じられました。
イ・サンを描いた物語と言えば、2007年のイ・ビョンフン監督、イ・ソジン主演のドラマ「イ・サン」が頭に浮かびます。朝廷内の争いや陰謀、友情、ロマンスなどサンの波乱に満ちた人生が丁寧に描かれていました。私も大好きなドラマです。
「赤い袖先」はそれとは焦点が全く違うドラマとなっています。どうしても比べてしまうのですが別物です。
始めはロマンスだと思って見ていました。もちろんその要素は色濃く含まれていますが、ラブストーリーともちょっと違う。
宮中で暮らす窮屈さ、自由のなさをイ・サンと宮女を通して描いた作品です。中国ドラマ「孤城閉」に少し似てるなと思いました。
史実を追いながらロマンスやアクション、切なさや楽しさを盛り込んだエンターテインメント歴史劇というのではなく心、葛藤を描いたものでした。
そしてここに描かれた世界が宮中では本当なんだろうなと思うと切なくなりました。
イ・サン(ジュノ)=世孫、後の第22代国王・正祖
ソン・ドギム(イ・セヨン)=東宮の女官
ホン・ドンノ(カン・フン)=サンの側近
英祖/ヨンジョ(イ・ドクファ)=サンの祖父、第21代国王
ドギムは幼いころから東宮の宮女となった。ある日、禁止されている遊びの罰として亡くなった側室・暎嬪の弔いに夜一人で行かされることになった。
ドギムはそこでサンと名乗る少年に出会う。そして暎嬪の亡骸を前に涙を流すサンの目元を袖先で拭って慰める。
ある日偶然に世孫を陥れようとする女官の会話を聞いてしまったドギム。ご主人様である世孫を守らなければと東宮書庫へ向かった。見てはいけない、持っているだけで罪を問われるという本を探し出し屏風の裏に隠れた。しかし捜査の手がせまる。危機一髪で機転を利かせて禁忌となっているページを破り取った。
サンは厳罰を覚悟していたが、問題のページは破られていると知ると、英祖には見てはいけない部分をあらかじめ破ったと嘘をつき難を逃れる。
ホン・ドンノはページを破ったのは自分だと嘘をつき、サンに恩をつくり絆を深めた。
サンは祖母・暎嬪の弔いの場で自分を慰めてくれた宮女が気になり密かに探すのだが・・。
以下ネタバレあります。
イ・ビョンフン監督の「イ・サン」は大好きで何度も見ていたので、物語の流れはわかっていました。だからこそ、この「赤い袖先」だけを見て歴史的流れや人間関係がわかるのかなと心配になりました。
もちろんカットされている部分で補えているのかもしれませんが。ドラマ最後はとんでもなく早く進んでいるので、これでわかるのかなぁ・・と。
サンを狙う陰謀や重臣たちとの対立も描かれていますが、単純に政争を追う展開ではないと気づきました。
単なるラブストーリーなのかな?と思ったりもしましたが・・。
前半はサンとドギムの恋愛が主なのかと思って見ていましたが、普通のラブストーリーのように二人の足並みがそろわず、このドラマが一筋縄ではいかない様子が見えてきました。
サンからの告白にもドギムはガンとして応じないんですね。これには少し驚きました。普通ならありえないんじゃないかな?と。
サンの誠実な告白をあれほど何度も拒むとは・・あまりにも頑固で好きになれませんでした。お互いに惹かれ合っていた様子だし、ドギムにも気持ちはあっただろうと思うので、どうして「お慕いしている」くらい言えないんだと怒りにも似た感情が湧き上がったこともあります。
宮中に入って自由がなく思い通りに生きられないとしても、それはもうどうしようもないことで・・。でもただ運命に流されたくなかったのか、それともサンに対して愛はなかったのか?
とにかくこのドギムにはイライラさせられました。あなたの本心はどうなの?と聞いてみたい。孤独でギリギリのサンを救うためにも、もう少し積極的に心を預けて欲しかったです。
ただあんまり寵愛を受けても、今度は妬まれて何をされるかわからない世界だから怖いですよね。現にいじめられるし・・。
側室になってから笑顔がなくなって、ハツラツさをなくしていくドギムは気の毒でした。どうして気持ちを開放できなかったんだろう。それが哀れでしたね。素直になればもっと楽だったろうに。
こうなるとサンも宮女のまま側に置くほうがむしろ良かったと思ったかしら・・確か側室にすると自由に会うこともままならないので宮女のままに・・というドラマがあったような気がする。何だったかしら?
それでも最後の最後までドギムは利己的な人で・・驚きを通り越して何様のつもり?と叫びたかった。(笑)最後まで自分の生き方を全うしたと言うべきでしょうか。
何よりもドギムが今までの宮女と違うことがこの物語の要ですね。彼女には彼女なりの考えがあることはわかりますが、この人のおかげで私はこのドラマが何を描きたいのかわからなくて混乱しました。
一方のサンも小さい頃からおそらく薄氷を踏むように生きてきて、自由はなく、人間らしく生きたいと常に思っている人です。そしてものすごく孤独。
世孫であった時もそうでしたが王になったにもかかわらず、というより王だからこそ何もかもが思い通りには出来ない。跡継ぎを作ることが任務の一つ、だから側室をとることも使命の一つ、もちろん自分で相手を選ぶことも出来ないという惨めさの中で暮らしています。
これはやり切れませんね。もはや人間とは思えないです。
幸運にもサンは心から愛する人を見つけられたけど、ドギムを縛っていいのか、でも自分も幸せになりたい・・もう悩み過ぎて病気になりそうです。
精一杯ドギムを愛し守ったサンでしたが、日々変わっていく彼女をどう見ていたかしら?サンの気持ちを思うとなんだかいろいろと切ないです。
世孫、そして王としてというよりも一人の男としてのサンの苦悩を描いていたんだと感じました。一人の女性を深く愛し、胸を高鳴らせ、喜び、悩み、悲しみ、苦しむ普通の人間としてのサン。
サンが最後に見た景色が後悔ではなく、ドギムと楽しく過ごした時間だったのは救われる思いで良かったなと思いました。最後は王の立場ではなくドギムを選んだサンでした。自由になれて良かった。(涙)
もし二人が普通の庶民として出会っていればと思うと宿命の残酷さを考えずにはいられません。この時代は庶民のほうが幸せだったのかもしれませんね。
サンとドギムのそれぞれの心の内、喜びや葛藤は、俳優の演技力も相まってよく描かれていたと思います。
特にサンを演じたジュノの演技力には感心しました。
そしてもう一人私が注目していた人物はホン・ドンノ(グギョン)です。カン・フンが演じていたので俄然期待したのですが、このドラマではあまり見せ場がありませんでした。
でもサンを思う気持ちがBLかと思うほど強くてドギムにも嫉妬するし可笑しかったです。そういう雰囲気が新鮮で面白かったです。
全体を通してゆっくりと進み大きな抑揚がないので、退屈に感じる人もいるだろうと思いました。やっぱり見ている私達も幸せになるような胸キュン場面がもっと欲しかったというのが正直なところ。
そして最後の早送りのような展開には物足りなさを感じました。また魅力的なキャストが揃っていましたが、若手中心なので少し軽い感じも否めませんでした。
それでも最後まで見て余韻も残り考えさせられることも多い良いドラマでした。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
では、また。