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中国ドラマ「清越坊の女たち〜当家主母〜」感想~刺繍の世界で奮闘した一人の女性の半生

「清越坊(せいえつぼう)の女たち〜当家主母〜」 当家主母 2021年 爱奇艺、腾讯视频、优酷

★★★★★

刺繍の世界のドラマですが派手な華やかさはありません。出だしからただならぬ展開ですが、見終わって全体的にしっとりとして心に染みるストーリーでした。

登場人物は多いですが、展開がゆっくりなのであまり混乱はありませんでした。人物一人一人が丁寧に描かれていて人となりや関係性がわかったし、台詞と台詞の行間にも感情が豊かに流れて思いがしっかりと伝わってきます。

包み込まれるように感情が良く伝わってくるので、なんでもない場面で涙が出るようなドラマでした。

ヒロインの沈翠喜(しん・すいき)と彼女を取り巻く人々、それぞれの生き方や考え方、気持ちの変化、そして成長を描いたヒューマンドラマとも言えます。

前半はヒロインを次々に襲う困難に気持ちがざわついて少し疲れました。スピード感もあり、まるでサスペンスを見ているような緊張感もあり手に汗握る展開でどんどん引き込まれて行きました。

長いドラマの中に、切なさも感動も爽快感もワクワクも詰まっていて飽きずに最後まで面白く見ました。

時々登場する昆曲もスッとその時代に溶け込ませてくれるアイテム、ドラマの雰囲気を盛り上げてくれました。

キャストは誰もが魅力的で素晴らしかったです。男性陣はみな辮髪が良く似合って素敵でした。

画像:百度百科

沈翠喜(しん・すいき)=蔣勤勤(ジアン・チンチン)
曽宝琴(そ・ほうきん)=楊蓉(ヤン・ロン)
任雪堂(じん・せつどう)=徐海喬(シュー・ハイチャオ)
魏良弓(ぎ・りょうきゅう)=茅子俊(マオ・ズージュン)
林舒芳(りん・じょほう)=張慧雯(ジャン・フイウェン)
任如風(じん・じょふう)=李逸男(リー・イーナン)

清朝乾隆帝の時代。蘇州の織り元の名家である任家に入った沈翠喜(しん・すいき)は卓越した刺繍の腕を買われて跡取り息子・雪堂(せつどう)の妻となる。刺繍の技術だけでなく経営の才も持ち、織物工房「清越坊」の女主人として広く名を馳せることとなった。

しかし夫はかつて将来を誓い合った恋人・曽宝琴(そ・ほうきん)を別宅に住まわせ子供をもうけた。雪堂は宝琴を妾として迎え入れたいと言う。

そんな中、任家は次男の如風(じょふう)が行った海賊との生糸の取引で一家取り潰しの危機に陥る。雪堂と翠喜は力を合わせて任家を救う道を模索する。

海賊の情報を得た雪堂は捕まえようと出立するが、逆に襲われて矢を受け川に落ちて行方不明に・・。

何年間も安否のわからない雪堂に代わり如風を当主とするべきだと長老達に迫られた翠喜は、宝琴の産んだ雪堂の息子・秀山を当主とすると宣言する。

一方、宝琴は息子を取り上げられた恨みから翠喜を引きずり下ろそうと画策する。

「清越坊の女たち〜当家主母〜」公式サイト

以下ネタバレあります。今回は特に長いです。

舞台となっている蘇州は古くから絹織物、刺繍で有名です。そしてドラマにも登場する緙絲(こくし)は主に蘇州で作られた絹織物です。

緙絲(こくし)とは、日本では綴織(つづれおり)と称されている織物の一種です。 平織(ひらおり)と呼ばれるもっとも単純な組織を基本としながら、下絵に合わせてさまざまな色糸を緯糸(よこいと)として通すことで、絵画のように自由で豊かなデザインを表現できるという特色があります。(東京国立博物館・東洋館)

蘇州には数多くの織物の工房があり、「清越坊」もその一つという設定です。物語はヒロインの沈翠喜(しん・すいき)の半生を描いたものです。

翠喜は①夫の女性問題②大店「清越坊」を狙う悪役人との死闘③男社会からの脱却・女性の自立・・このような大きな問題とその都度必死に戦います。

最初は夫・雪堂と宝琴の問題で、もちろん翠喜の目線で見ていたので辛かったです。ただ翠喜も雪堂への愛というより任家を守る使命があるからこその抵抗、だからこそ余計痛々しく見えました。

翠喜は卓越した刺繍の腕を持っていますが、これは途方もなく長い時間をかけての努力のたまものです。自分を育ててくれた雪堂の祖母への恩もあったし、女主人という呪縛を背負いとにかく任家が全てというような人です。何もかも一途に任家のために尽くしますが、そのことを本当の意味で理解してくれる人はいません。

夫の愛も得られず、優秀だからこそ疎まれもして、さぞかし孤独だったと思います。

それでも次第に彼女のことを理解するようになった周りの女性たちが一緒に協力して悪徳役人と戦う場面は感動的でした。そして最後は任家を出て自由になり、刺繍の技術で女性の自立の手助けをしようと羽ばたきます。

翠喜が本来の自分を取り戻す物語でもありました。

 

さて、このドラマにもたくさんのカップルが登場します。

画像:百度

任家当主の雪堂

この人は最後までつかみきれない人でした。どうも好きにはなれなかった。究極の選択を迫られて決めきれないという頼りない部分もありますが、そこがまた人間らしいともいえるでしょう。

宝琴に対してはやはり認められない恋だからこそ燃え上がっている感じに見えました。意地になっているような。でも息子を生んでくれたのですから到底無下には出来ないですね。

でもおそらく彼には翠喜への愛もあったと思うのです。大切に思っていたからこそ最後は手放したのではないかと思っています。子供の頃から同じ家に一緒にいた二人ですから、男女の愛とは別の物だったのでしょう。

ところで雪堂って結局7年間も逃げていたということですよね?酷すぎます。いくら何でもこういう人がまた当主に戻っるっていかがなものか。世間が許すんでしょうか?

翠喜を自由にしたのは罪滅ぼしでもあったのかな。

宝琴

この人も私は最後まで好きになれなかった。それでも雪堂が行方不明だった7年間で翠喜を理解するようになり、悪者を撃退する一助となりました。わだかまりが溶ければ強い味方でした。

最初に感じたような悪者でもなかった。でも私はやっぱりちょっと図々しいなと思ってしまうのです。

でもこの雪堂と宝琴の二人は良い面も悪い面も、強い部分も弱い部分もあって人間臭さを感じました。

画像:sohu.com

魏良弓(ぎ・りょうきゅう)

それほど出番が長くないのに、強烈に印象に残っている人です。翠喜の前に奇跡的に現れた天使のように見えました。

余命いくばくもないという設定で見るからにはかなげ、心が美しい人でした。命ある限り翠喜を心から愛し、励まし、支え、楽しく過ごす・・その姿に感動しました。

それまでは悲惨な運命で世の中に失望し、無力感でいっぱいだった人。もう自分の存在理由もなく、生きる気力もなくしていた人です。だからこそ翠喜に出会い愛したことは彼にとっても一筋の光でした。

余命わずかでも彼女への思いは止められなかった。生きていることを実感できた時間だったと思います。

そしてそれこそ生き生きとした最後でした。

翠喜

愛し愛される喜びを知って、更に強くなりました。

夫から愛は感じられなかったし、そもそも任家を切り盛りするため愛などというものにかまけていられなかった。

良弓に会って初めての感情が湧き上がり、見返りを求めずただ自分を理解し支えてくれる愛を知りました。翠喜の笑顔はきれいでした。

良弓に会うまでは本当にぎりぎりのところで持ちこたえるような毎日だったことを思うと、愛で心が溶けるような経験が出来て良かった。

たぶんこれで雪堂と宝琴の気持ちにも思い至り、自分も解放されたのだと思います。

良弓が死んでしまった時、悲しいのに凛としている姿は翠喜らしいなと思いました。でも簪が小刻みに震えているのがすごく辛かったです。素晴らしい表現、そして演技でした。私は号泣でした。

でも・・このカップルは翠喜がとても年上に見えて少し違和感が・・。それでもこの二人のロマンスはそんな余計なことは関係ないと思わせてくれたほど美しかったです。

画像:sohu.com

任如風

「清越坊」取り潰しの危機を招く放蕩息子でしたが、私はなぜか憎めませんでした。

おそらく雪堂がいるから任家には自分の出番はないと思っているし、誰からも期待されていないし、それでも僕は任家の次男だぞ・・みたいな複雑な心の持ち主。

何をやってもダメだと思っていたけれど、いざと言う時には体を張って任家のために尽くしました。そういう姿を見て雪堂よりも当主に相応しいように感じたこともあります。

そして何より、妻として林舒芳(りん・じょほう)を選んだことが素晴らしいです。始めは本当に好きなの?と疑問視していました。うまく利用するためではと心配しました。

でも本当に純粋に舒芳と結婚したいという気持ちだったようです。彼の母親も息子をうまくコントロールしてくれるだろう舒芳ですから賛成でしたね。

如風にとっては大逆転的な後半でした。彼は確かに愚かにも見えるけど、可愛い人でしたし、ドラマの中でも雪堂よりもずっとウエイトが大きく、印象に残っています。

◆林舒芳(りん・じょほう)

翠喜のもとで経営を学び、その真面目で緻密な性格が経理にピッタリ。翠喜も全幅の信頼を置く人です。控えめでもあり、決断力も勇気もあったし、そして可愛らしさもありました。

如風と舒芳のロマンスは笑いもあり胸キュンもあり楽しかったです。この二人がいてドラマに柔らかさが加わって良かったです。

 

そしてもちろん登場する悪者が強烈です。(笑)

画像:sohu.com

李照と曹文彬です。どちらもかなり憎々しい。

李照は曽宝琴(そ・ほうきん)をずっと以前から愛して、雪堂のみならず財力のある任家に恨みがありました。何度も翠喜や「清越坊」に嫌がらせをします。

若い頃の貧しさや裏切りが彼を歪めたことを同情はしても、許せません。憎たらしい感じが本当によく出ていて、流石の演技でした。

その李照の上を行く悪党は曹文彬です。この人はただの悪人というより卑しいんですね。典型的な腐敗役人です。この人も任家の財力を羨み、何とか自分の物にしようと企みます。この人は憎たらしいというより怒りを覚えました。思いもよらない最後でしたが、自業自得です。

 

最後、翠喜が女性の自立のために人生をかけようとする姿は希望もあって素晴らしいし、彼女がそれまでのしがらみから解放され生きがいを見つけられたことは本当に良かった。良弓との思い出もあって、自信をもって堂々と生きられるでしょう。

宝琴の侍女の結婚が最後にバタバタと展開しますが、何故?と思ったりもしました。でもこれも女性が自由に自分の意思で行動するということの象徴でしょうか?この子もあまり好きになれず、私はなんだか少しモヤっとしてしまいました。

こうやって振り返ってみると登場人物それぞれ個性があって、それがこの作品を見ごたえあるものにしています。ただ面白いというより、それぞれが合わさり複雑な味になる美味しい高級料理のようでした。

 

最後まで読んでくださってありがとうございます。