「孤城閉~仁宗、その愛と大義~」 原題:清平楽 2020年 湖南衛視
★★★★☆
北宋・第4代皇帝仁宗の半生を皇帝としてだけではなく、夫として父として、一人の人間として丁寧に掘り下げて描いた本格時代劇です。
静かな中にも緊張感を感じる重厚な作品でした。本当にゆっくりとした丁寧な描写のおかげか、自分もドラマの中に入ったような不思議な気持ちになることもありました。
登場人物はかなり多く、子役から大人へという変化もあるので最初は少し苦労しました。ただ展開はゆっくりなので思いのほか混乱なく見ることが出来ました。
政治的ないざこざや後宮の問題などありますが、ドロドロした感じはありません。どちらかというと淡々と物語が展開していきます。もしかしたら、これが退屈に感じる人もいるかもしれません。
少しずつ話の中心が変わりながら進むので私は飽きることもなく最後まで面白く見ました。初めの頃より終わりに近づくにつれて加速度がついて面白く感じられました。
他の歴史劇とは違うと感じたのは朝廷でのやり取り。時間をかけて朝議が丁寧に描かれていて、実際にこんな風だったんだろうと想像しました。
そして、それぞれの俳優の素晴らしい演技で人物の人となりも苦悩も情熱もしっかりと伝わってきました。登場人物の一人ひとりがとても魅力的でした。
また本格的な時代劇にふさわしく調度品や衣装、装飾品、絵画も素晴らしく目を楽しませてもらいました。
仁宗・趙禎(ちょう・てい)= 王凱(ワン・カイ)
曹丹姝(そう・たんしゅ)=江疏影(ジャン・シューイン)
張妼晗(ちょう・ひつかん)=王楚然(ワン・チューラン)
公主・趙徽柔(ちょう・きじゅう)=任敏(レン・ミン)
梁懐吉(りょうかいきつ)=辺程(ビエン・チェン)
北宋の時代、幼くして皇位を継ぎ第4代皇帝となった趙禎(ちょうてい)は自分の生母が別にいることを知り、また自分だけがその事実を知らなかったことに憤る。そして、生母に孝を尽くせなかったことを悔やんだ。
育ての親の太后(劉我)は依然と垂簾政治を行い実権を握っており、趙禎は我慢を強いられていた。それでも趙禎は誰もが慕う君主となるにはどうしたら良いかと模索していた。
一方、書院で男子と共に学んだ曹丹姝(そうたんしゅ)は都に戻り趙禎の評判を聞き、自分が男ならすぐにでも仕官したいと思うようになり、その思いはいつしか恋心に変わっていった。
後宮の諍いで皇后が廃され新たに皇后を選ぶことになった時、白羽の矢が立ったのは丹姝だった。
喜びを隠せない丹姝だったが、入内して数日経っても趙禎は顔を見せず、初夜にも現れなかった。趙禎は丹姝が醜女だという噂を信じ会う気になれなかったのだ。
胸をときめかせて宮中に入った丹姝だったが、妻としてではなく臣下として趙禎に尽くそうと考えるようになる。
孤城閉〜仁宗、その愛と大義〜 | ドラマ | BS11(イレブン)|全番組が無料放送
以下ネタバレあります。
このドラマの前に「大宋宮詞」を見たので、その続きのようですんなりと入り込めました。
今回の主人公は趙禎(ちょう・てい)。不満だらけで感情が先走る青年期から、人の話をよく聞き寛容さと慎重さを備えた晩年まで趙禎という人間を色々な面から描いています。
皇帝としては朝廷の一筋縄ではいかない大臣たちと向き合い戦い、夫としては皇后、側室達を気遣い、父としては息子や娘を心から愛した人でした。
いつも問題が怒らないように注意を払っていたように見えました。
私は最初は皇后となる曹丹姝(そう・たんしゅ)の目線で物語を追っていたので、ものすごく辛かったです。
好きな人に嫁げる幸せを胸いっぱいにして宮中に入ったにも関わらず、夫となる趙禎とはうまくかみ合わず、何をしても裏目に出てしまいます。趙禎は勝手に決められた結婚が気に入らない上に変な噂を信じて丹姝を避けるんですが、顔を合わせてあれ?って思ったときにすぐに関係を修復できていればと悔やまれます。
男としての趙禎に私は好感が持てませんでした。幼馴染との恋に浮かれていても迎えたのは皇后になる人だし、ひどい仕打ちです。ひねくれても仕方のないところですが、丹姝は趙禎のことを思い、かえって距離をとるようになってしまったんですよね。
その後張妼晗(ちょう・ひつかん)が登場すると、私は趙禎がますます嫌いになったし許せなかったです。もちろん張妼晗も嫌いだったけれど。
「しっかりした君は一人でも大丈夫だろ、でもあの娘は僕がいないとダメなんだ・・」みたいな・・思い出してもムカついてきます。皇帝といっても人間だし、好きと言う気持ちはどうしようもないですけど。
なんでもそつなく完璧な丹姝には少し気後れして近寄りがたかったのかな。心の奥底では恐れる部分もあったかも。
こんな風なので丹姝の目線で物語を見ていると胸が苦しくなるということに気づき、それからは趙禎の立場で見るようにしました。
そうすると今度は何をやっても思い通りにいかない趙禎の苦しさが迫り、我慢を強いられる姿に同情しました。
いろいろとあった趙禎と丹姝だったけれど、中盤辺りから距離も縮まりお互いにはっきりと口に出さずとも慕い合っている様子も見えたので良かったです。
最初から仲睦まじい夫婦となっていたら歴史も変わったのかなぁと思ったりしました。
物語の中で一番どきどきハラハラしたのは公主・趙徽柔と宦官・梁懐吉(りょうかいきつ)の関係です。二人は強く結びつきますが・・。
徽柔は好きになった人とは結婚できず、パッとしない李瑋(父=趙禎の生母の甥)に嫁がされることになり、そのことに納得がいかずかなりご立腹でした。きっと徽柔は眉目秀麗な人が好きなんですね。
父親としては徽柔を生涯愛してくれる人に嫁がせようと思ったのですが。
徽柔は父が決めた李瑋との結婚に猛反発でしたが、それでも結局は仕方なく嫁ぐことになります。でもあれ程嫌いな相手ならもうどうしようもないですね。李瑋の母親も酷かった、名ばかりの結婚だったのだからそれを理解できた人であれば・・。
この結婚に関しては趙禎は生母への罪悪感を払拭するため、娘の徽柔に犠牲を強いたように思えて仕方なかったです。趙禎もわがままな娘にほとほと手を焼きますが、自分の若い頃はどうだったの?と問いたかった。
懐吉が賢く弁えている完璧な宦官であり、才能豊かなイケメンなので私もつい気持ちが入ってしまいます。先輩宦官に注意されていたにも関わらず、公主に特別な思いを寄せてしまって・・切ない場面がところどころに・・。
でも、どんな時も宦官懐吉でしたし、周りに責められるところなどなかったと思うのです。意地になって攻め立てる司馬光め。なぜあそこまでと思ったけれど、もう最後は笑ってしまいました、そのしつこさに。
徽柔には同情もしました。でもいくら甘やかされて育ったとはいえ、自分のわがままが周りの人の災難になりえるということに思い至らないとは。いつか懐吉が死ぬことになるのではと本当にハラハラしました。
最後の最後で父親に諭されてわかったようですが、ちょっと遅すぎました。もう少し賢く立ち回っていれば、別れずに済んだかもと思ってしまいます。
結局二人は離れ離れになってしまい、もう悲劇でした。(涙)
歴史上に徽柔も懐吉も、そして徽柔の夫となった李瑋も実在しました。それを思うと尚更辛くなりました。
徽柔は33歳の若さで亡くなったそうですが、史実では李瑋の虐待もあったようで、本当にひどい話です。
自分が決めた結婚そのものが最愛の娘の悲劇の始まりだったわけで、父親の胸中を思えばそれこそ悲劇だなと思います。
思い返すとあまり幸せな人はいませんでした。でも趙禎が最後は丹姝の腕の中で亡くなったのは救いだったかな。
美辞麗句に飾られた皇帝ではなく人間として苦悩する趙禎は身近に感じられました。
もう一度見れば、もっと感じ入ることがたくさんあるような気がします。
ゆっくりとその時代の雰囲気も味わえる素晴らしい作品でした。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
では、また。