ふくみみdiary

  日常のあれこれのほか、読書記録、ドラマ(韓国・中国)感想記録を残してます。

読書「宙わたる教室 伊与原新」他

読書には図書館本を利用しています。今回は長く待っていた本がなぜか一度に手元に。どれも話題の本ばかりで、楽しく充実した時間を過ごしました。

今回の作品はどれもおすすめ!

以下ネタバレあります。

218.カフネ 阿部暁子

『法務局に務める野宮薫子は最愛の弟・春彦を突然に亡くす。

春彦は遺言書を残しており、薫子は相続人の一人として名前のあった彼の元恋人・小野寺せつなに会うことにする。しかし、せつなは相続を断固拒否、取り付く島もない彼女に薫子は怒りを覚えた。

そんな時、突然薫子は倒れてしまう。離婚をしてすさんだ生活をしているせいだ。そんな薫子の為にせつなは温かい豆乳素麺を作ってくれた。その優しい味が心にしみて薫子の目には涙が。

ある日せつなから、勤めている家事代行サービス会社「カフネ」の活動を手伝ってもらえないかとスカウトされ・・』

お料理が中心の物語だと思っていましたが、そうでもありませんでした。でもたくさんの美味しそうなお料理が出てきます。そのお料理を想像するだけで心がほんわかしました。

晴彦の死の謎というミステリー要素もある一方、現代が抱える社会問題=親と子の関係、家族、介護、離婚、ジェンダーなど盛りだくさんの内容でした。

様々な事柄が自然に物語に溶け合っていて、テンポもよく読みやすかったです。

自分以外の人のことはたとえ家族であってもわからない、一面だけで判断してわかっていると思いこんでいるだけ。誰でも思い当たるのではないかと思います。

それでもお互いを思いやる登場人物にとても癒やされたし、生き方の参考になるような物語でした。

最後は穏やかですが感動的、人間っていいなと思わせてくれました。

でもちょっと薫子のせつなへの思い入れが強すぎ、最後の養子縁組の提案は唐突過ぎたような気もします。

2025年の本屋大賞に輝き、期待し過ぎてしまったことが少し悔やまれます。

219.アルプス席の母 早見和真

『秋山菜々子は看護師をしながら女手ひとつで息子・航太郎を育てている。

航太郎は子供の頃から野球に情熱を燃やしていて、今は湘南の野球チームで活躍する将来有望な中学生だ。

中2の秋、高校進学にあたり息子の口から出た希望校は大阪の「山藤学園」。甲子園の常連校で、航太郎が亡き父に行くと約束した高校だった。

菜々子は即座にOKを出すが、「山藤」では一般受験では野球部に入れない、全員が野球推薦を得た子ども達でどうしたら「山藤」の野球部に確実に入れるのかわからない。

菜々子は相談のため野球チームの監督に突撃する。しかし高校野球では寮費など多額の費用が必要で、ただ行きたいでは済まされない事実を知り・・』

題名から高校球児たちから見た母親への愛情を描いた小説かなと思いましたが逆。高校球児の母親たちの姿を母親の目線で描いたもので、息子たちへの愛がたっぷりの作品でした。

とても面白かったですし一気読み、高校野球の別の側面を知っていろいろと驚くこともありました。

ちょうど夏の高校野球開催真っ只中で応援するご家族の思いがリアルに迫ってきました。今年は途中出場辞退の広陵高校の件もあり複雑な思いも湧きました。

作中では母親の愛情の深さはもちろん、レギュラー、補欠関係なく野球部全員で戦う高校球児の絆が心を打ちます。

母親目線の物語で球児たちの様子はあまり出てきませんが、それでも息子たちの成長もしっかりと伝わり頼もしく爽やかな印象の物語でした。

テレビで見る高校野球はほんの一面なんだなと思いましたし、野球に限らずアスリートの世界って想像以上に大変な世界だと改めて思いました。

できればアスリートの皆さんにはどんな時にも純粋に楽しんでプレーできる環境であって欲しいです。

綺麗事ばかりの内容ではありませんが気持ちの良い終わり方ですし、読後感は爽やかです。

220.宙わたる教室 伊与原新

東新宿高校定時制に通う柳田岳人、自分は頭の悪い不良品だと思い詰め、2年生になったものの退学を考えていた。

岳人は例えば計算問題には強いものの、文章問題になると手もつけない。担任教師の藤竹は彼が読み書きに困難がある学習障害ディスレクシア)で知能には全く問題がないと気づく。

文字のフォントを変えただけで、魔法のように文字が読めるようになることを知った岳人は喜ぶどころかこれまでの人生が悔しくて逆に自暴自棄に。

そんな時藤竹から科学部を作って一緒にやらないかと声をかけられる。冗談だろと言いながらも「火星の夕焼けは青いのを知ってますか?」という言葉に思わず反応してしまい・・』

定時制高校の科学部に年齢も国籍も抱える事情も違う生徒が集い、共に知恵を絞り実験室に火星を作ろうと奮闘する物語。それぞれの登場人物の成長も読み応えがあります。

フィクションですが、実際の定時制高校科学部がモデルとなっているようです。定時制高校にも部活動があること知りませんでした。

文句なく面白いです。ワクワクする展開で彼らの世界が本当に羨ましかった。

それぞれ個性的な部員が登場しますが、担任の藤竹先生が個々の長所を見抜いた上で科学部に上手に引き入れる手腕がスゴイなと感心してしまいました。

藤竹先生のように誰かに将来の希望や輝き与えられることは素晴らしいことです。

実は実験の説明など多少難しいと感じることもあったのですが、全体的には読みやすく最後まで楽しかったです。宇宙、火星のことなのでロマンチックでもありました。

登場人物の抱える事情もしっかりと描かれていて、その人の歩き方や笑顔まで想像できるので身近に感じられ、応援したくなりますし将来への期待も膨らみました。

伊与原新さんの作品では隅々にまで光が行き届き情景がありありと浮かぶので、物語の世界に入り込みやすいですし、不思議と自分もその場に居るような錯覚を覚えます。

参考文献がまたどれも面白そうです。 

 

最後まで読んでくださってありがとうございます。