苦しくなるほど泣ける小説を探しているけど、なかなか行き着かずウロウロしています。感受性は人それぞれだから、「おすすめ」というものを読んでみてもピタッと当てはまらないことが多く難しいですね。
歳のせいで涙のセンサーも錆びついて来ているのかなと心配でしたが、今回は泣けたものもありました。
以下ネタバレあります。
170.正体 染井為人
『一家3人を殺した犯人として死刑判決が下った鏑木。無罪を訴えるがその声は届かなかった。
鏑木は脱走し、仕事を転々としながら逃げ続ける。彼には時間がなかった』
重く暗いだけの内容を想像していましたが、違いました。冤罪をテーマにしていて、逃亡中のエピソードが中心です。
場所も仕事も変えながら、正体がバレそうになると逃げるを繰り返します。その先々で知り合う人々との関わりが描かれ、その中で彼の人となりが見えてきます。
読み進む中で鏑木の人間性に触れると彼が殺人を犯すとはとても思えず、それでも実はどうなんだろうと心の中は右往左往しました。
理不尽でいたたまれない。逃亡中は誰も信じられなかっただろうけれど、誰かに打ち明けていたら違っていただろうか?と考えずにはいられなかったです。
人を信じることの難しさを改めて思いました。
鏑木は無実を証明出来ないまま、最後は捕まえに来た警察官によって殺されてしまいます。しかし、その後彼を信じた人達が立ち上がり無実が証明されるのです。
死後に冤罪だと証明されて意味があるのか?頭の中では意味があると思えますが実際は・・・。
泣いたし、苦しかったし、怒りも湧いてきてやりきれない気持ちでした。
それでもとても面白く一気に読めました。
171.お台場アイランドベイビー 伊与原新
『直下型地震で荒廃した東京。元刑事で今はヤクザの用心棒をしている巽丑寅は一人の不思議な少年・丈太と出会う。
巽は丈太に亡くなった息子が重なり気にかけるようになる。そして丈太の影に「震災ストリートチルドレン」の存在があることに気づき、失踪した彼らを追ううちに大きな陰謀の闇が見えてくる』
近未来を舞台にしたミステリーということでしたが、ミステリー色はあまり濃くなくハードボイルドに感じました。無国籍児や臓器売買といった問題を描いた社会派小説でもあります。
大きな震災後に復興も進まなければこんな風な状況になるんだろう、当然犯罪も横行するだろうと描かれていることが身近にも感じ恐ろしくなりました。
登場人物のキャラが生き生きとしていて魅力的で。複雑な内面を持つ巽のキャラが好きでしたし、純真無垢な丈太、その他癖のある人物もいて楽しめました。
前半は難しい法律などの説明もあって、丁寧さは感じましたが展開がゆっくりでもう少しスピード感がほしいなと思っていました。ところが、クライマックスに入って俄然早くなり前のめり的に面白かったです。
かなり重いテーマを扱っていますが、善人側だけで物語が展開しているせいか嫌な気分になって落ち込むなんてことなく読めました。
私もやはり巽の元上司・みどりの同性愛は意味があったのか疑問です。

172.君と見つけたあの日のif いぬじゅん
『かつては子役として活躍し今は劇団に所属する杉崎結菜は友達もなく、女優業に対する母親からのプレッシャーもあり、学校でも家でも自分の居場所がないと感じていた。
そして確実だと思っていた劇団春公演のオーディションにも落ちて眼の前が真っ暗になった。そんな時に座長から妙な仕事を頼まれる。
ある家族と共に過ごしその家の娘を演じるレンタル劇団員の仕事だという。更にこれは劇団の運命を左右する大事な仕事だと言われ・・』
泣ける小説ということでしたが、ほとんど泣けませんでした。
ストーリーとしては優しく流れるような展開で、レンタル劇団員というアイデアの面白さがありましたが、あまりひねりもなく深みもないので、感動もなく終わってしまいました。
人物の描かれ方も薄く共感も持てなかったし、物語に入り込めなかったです。
173.卒業 東野圭吾
『大学4年生の相原沙都子は親友が密室で亡くなっているのを発見する。自殺か?他殺か?
沙都子は彼女が残した日記帳から真相を探ろうとする。日記帳には空白の6日間があった。彼女が抱えていた悩み、秘密・・それはなんだろう。
そして茶道部を巻き込む第二の事件が・・』
大学生主体で物語は動きます。文章も読みやすく、本格的なミステリーで謎解きの展開も面白かったです。
1986年の作品なので、喫茶店での様子とか所々で懐かしさを覚えるシーンもありそれも楽しかったです。
友達でも知らないことは多く、信じていても迷いも生じる。そういう複雑な心理が自然と描かれていました。
ただ殺人の動機が軽い気がしましたし、雪月花之式のトリックが複雑すぎて茶道の嗜みもない私は戸惑いました。そして茶道部の先生の考えが釈然としなかった・・。
加賀恭一郎シリーズの第1作目。ちょっぴり切なく、悲しい内容ではありますが、清々しさも感じ後味は悪くはなかったです。
それでも結末は少しはっきりせず消化不良でした。
174.図書館のお夜食 原田ひ香
『本に係る仕事をするのが夢だった乙葉は書店で働いていたが、店で起きた事件に巻き込まれ転職を考えるようになった。
丁度そこの頃、本を扱う仕事を紹介したいとダイレクトメールが届き、迷った末に面接を受けることにする。
そこは東京郊外にある夜の図書館。夜の7時から夜中の12時まで開館していて、亡くなった作家の蔵書だけを置いているというちょっと変わった図書館だった』
お夜食という題名から料理が主体の物語かと思いましたが、違いました。夜の図書館で働く人、図書館を訪れる人の日常のエピソードを綴った物語です。
それでも紹介されている料理は簡単でありながら香りまで漂ってくるような美味しそうなもの。真似して作れるように思えるところも魅力的でした。
章ごとに短編のようにも読むことができ、読みやすいですし一つ一つのエピソードは面白かったです。ただどれも中途半端で終わっていて・・。
これは続編があるんでしょうか?
物語をこのように終えて、読者の妄想を掻き立てるというのも悪くはないのですが、全てがそうだとやはり気持ちが落ち着かなかったです。
最後まで読んでくださってありがとうございます。