ネタバレあります。
240.にぎやかな天地(上・下) 宮本輝
【船木誠司は美術書専門の出版社で働いていたが、その会社が倒産となってしまった。今は社長から紹介された松葉から依頼される年に2、3冊の非売品の豪華限定本を作ることで生計を立てている。
その松葉から「日本の優れた発酵食品を後世に残すための書物」を依頼され全てを任されることに。
このことがきっかけで、誠司は亡き祖母との思い出の糠漬けを自ら作ってみようと祖母愛用の木桶を引っ張り出す。
誠司は発酵食品を取材しながら発酵という不思議な力に魅せられていく】
主人公の誠司による発酵食品の取材の中で、目には見えない菌による発酵がもたらす魔法のような変化が描かれていきます。
鮒鮨、味噌、、鰹節、酢などの発酵食品を取り上げて、作り手の手間ひま、作り方による品質の違いなどが描かれていて勉強になりました。例えば味噌にしても鰹節にしても値段がピンキリな理由も良くわかりました。
誠司の周りの人物はそれぞれ重い過去を背負っています。それぞれの人物の思いが優しく絡み合って、思いがけない方向に向かう・・そういうところにも面白さがあり、味のある人間ドラマでもありました。
悲しみも葛藤も愛も喜びも ぎっしりと詰まった物語。
「ヒコイチ」「滝井野里雄」のエピソードのようにミステリーのような一面もあり、また「死」を考える厳粛な一面もあります。
誠司自身、交通事故をきっかけに「死」を実感するような体験をして「命」を考えるようになったり・・。
発酵食品がテーマのようでもありますが、目に見えない感情や心、例えば愛情や思いやりにふれて変わっていく人間を描いた内容でした。一人ひとりを温かく見守る視線が優しかったです。
一つ一つのエピソードもそこで語られる言葉も深く心に沁み入ります。最後は涙でした。清々しく心地良い読後感でした。
私もとろろ昆布と鰹節のお吸い物を作ってみようと思いました。
241.BUTTER 柚木麻子
【梶井真奈子は婚活サイトを介して知りあった男性から金を奪っただけでなく、3人を殺した罪で東京拘置所に勾留されている。
男達を手玉に取った梶井が若くも美しくもないということでも世間の注目を集めた事件だった。
彼女の趣味は食べ歩きで料理上手でもあり、逮捕直前まで書いていたグルメブログも話題となった。
週刊誌の記者をしている里佳は梶井の事件がずっと気にかかっていた。梶井本人に会いたいと思い手紙を出し続けているが反応はない。
里佳は友人の怜子からアドバイスをもらい、3人目の被害者のために作ったビーフシチューのレシピを教えて欲しいと手紙に書き添えてみると梶井から面会に応じるという返事が来た。
駆けつけた里佳に梶井は事件については話をするつもりはないと言い、バターの話を始めて・・】
読み始めてすぐに実際にあった木嶋佳苗による「首都圏連続不審死事件」を思い出しました。やはりこの事件をモチーフにした物語でした。
読んでいてあまり気持ちの良いものでもなかったし、特に前半は読み進めるのに時間を要しました。ずっと漂う危うさに不安になりましたし、引きずり込まれるような恐怖も感じました。
でもそれに反して料理の描写は生き生きとしていて香りも漂うようで美味しそう、胃が刺激されます。
前半は梶井真奈子一色という感じですがだんだん梶井の陰が薄くなって、後半は里佳や彼女の周りの人たちの再生がテーマになっていきます。
結局は何を描いていたのかな?と・・。
一つは「孤独」でしょうか。
梶井と被害者となった男性達との間にあった感情は?と考えると、お互いに自尊心を保つだけの間柄だったような気もします。持ちつ持たれつという感じの。
梶井はお姫様扱いをしてくれる誰かを欲していただけのような気がしますが、男性側からすれば料理を作ってくれる梶井は唯一のオアシスだったのだろう思うと不憫です。
一方、梶井だけでなく里佳も怜子も底なしの孤独を抱えているように見えました。その孤独にもがき苦しむ姿に同情はしても、共感できるところはありませんでした。
もう一つは「貪欲に生きる」ということ。
見た目や過去などに振り回されず、自分は自分というスタイルを貫き生きる快適さ、自分に嘘をつかないで生きること、何があっても「生きる」という貪欲さを考えさせられました。
里佳が七面鳥パーティをしようと思ったのは自分の殻を破るためでした。パーティは成功して楽しい時間を過ごせた。梶井に対して優越感を抱いたでしょうか?
勝ち負け(と言うのもおかしいですが)は一目瞭然、梶井とは違い里佳には自分で切り開く将来がありますし、損得なしに自分に向き合ってくれる仲間も友人もいます。
その後の梶井はどうなったのか、もしかしたら殺人は犯していないの?と思うとスッキリしないのも事実ですが、最後の里佳へのとんでもない仕打ちで、あぁ梶井ってやっぱりこういう女なんだなと思わせてくれました。本性が見えてこれで十分なのかもしれないです。
最後は清々しさも感じますし、読後感は悪くありませんでした。
海外でも人気の作品のようです。海外の方々はどういう感想を持つのか、興味深いです。

242.グレイラットの殺人 M.W.クレイヴン
【空の貸金庫を襲った強盗団が仲間の一人を殺し、ラットの置物を残して姿を消すという不可解な事件が起こった。
その3年後、ポーとブラッドショーはFBI捜査官メロディ・リーに招集される。売春宿で起こった殺人事件の捜査のためだ。
折しもこの地での首脳会議開催が迫っており、被害者が要人を運ぶヘリのパイロットであったことから、この事件は政府の神経を尖らせた。
調べを進めると意外な事実が・・殺人現場から小さな置物が無くなっていた。更に被害者はパイロットにもかかわらず、航空局のデータベースに名前がなく・・】
スケールの大きな事件でした。根底に戦争があり重苦しいです。でも章が「何?何がわかったの?」というところで終わるので、先を読まずにはいられない。スピード感あふれる展開で夢中で読んでいました。
最初のツカミも巧妙です。そして最後はえ!と思う犯人、そして他にも策士がいて・・二転三転でやられました。
面白すぎます。
最後まで読んでくださってありがとうございます。