猛暑の夏は冷房のきいた室内で本の世界に逃げ込み体を休めたい。本当なら避暑地、緑に囲まれた中で読書したいです。
今回はあまり抑揚のない物語を選んでみました。
ネタバレあります。
208.横しぐれ 丸谷才一
『和歌を専攻とする国文学者。亡くなった父親が楽しく語っていた思い出話の中に登場する坊主が実は俳人の種田山頭火ではないかと推理して調べ始める。そして父の秘密を知ることに・・』
ストーリーはミステリー風で面白く、ファンタジーとは違いますが不思議な世界観でした。
和歌の素養があればもっと深く理解できるのだろうと思うと悔しかったです。
旧仮名遣いで読みにくく難しいと感じたり、一文が長くて戸惑うところもありましたが、それがまた独特の味わい。
読むのに多少苦労しましたがわかりにくいと感じる事はなく、物語の世界に自然に引き込まれます。
書く人なら誰もが憧れるような大人の文章、美しい文章です。
他にも3篇収められていて、短編集となっているのもとっつきやすいと思います。私は「だらだら坂」にゾクッとして特に印象に残りました。
どの物語も大きな抑揚はないですが、余韻が残りいつまでもその余韻にずっと浸っていたい、そんな作品でした。
209.もう、さよならは言わない 榊邦彦
妻の死、母の死をゆっくりと受け入れていく物語。
物語はとても静かに進みますが、裏側では泣き叫ぶことも身を引き裂かれるような苦悩や後悔もあったでしょう。こんなに愛あふれる家族だったのにと思い何度も涙が・・。
シングルファーザーの奮闘記ではなく、悲劇的でもドタバタでもない。きれいすぎるかなとも思いましたが、しっとりと心に染み渡るような物語でした。
お父さんが完璧、そしてそれ程事細かく描かれていないのに幼い息子の成長がよくわかり希望も感じます。
大きな感動はありませんでしたが、語り尽くさない終わり方もとても良かったです。

210.リリアン 岸政彦
『男はジャズ・ベーシストをして生計を立てているが、最近は音楽をやめようかということばかり考えていた。
場末のバーでバイトしている美沙さんと流れるように関係ができていき・・』
なにも起こらない物語・・孤独や不安感を描いているのかなと思いますが、悲しいことも感動も怒りも無いです。
小舟でゆらゆら漂うような独特の雰囲気が心地よくどんどん読めました。
主人公がジャズミュージシャンであること、物語の会話部分が大阪弁でリズムを感じることから、物語自体がまるで音楽のようなでした。
舞台が東京なら、きっとこういう雰囲気は出ないんだろうなぁと思いながら読みました。すごく好きです。
211.すべて真夜中の恋人たち 川上未映子
『会社を辞めてフリーの校閲者となった入江冬子は34歳独身。楽しみは誕生日の真夜中に散歩に出ること。人付き合いが苦手で友達もなく、ずっと一人でひっそりと生きてきた。
ある日、カルチャーセンターで何か受講してみようと申込みに出かけ、ある男性と出会う』
劇的な展開はありません。面白いか?と聞かれると微妙。
生き方に正解などないので、冬子の生き方をあれこれ言うことも出来ないけれど、孤独を通り越して鬱でしょ、病気でしょ?と思う場面もありました。
周りに多少の刺激を与えてくれる人はいるものの、この人たちも実は孤独。都会の暗闇だけを見せられたような気分でした。
冬子にはものすごくイライラしたし、好きにはなれず、感情移入も出来ませんでした。出会った男性との初恋は切なくて痛い。でも自分で切なくしているようで嫌でした。
最後は友人・聖との言い合いで冬子にも少し変化が出てきたようでそれが救い。冬子にはこんな風にしっかりと自分と向き合ってくれる人が必要だったんでしょうね。
読み終わって思い出しては頭の中にぐるぐると考えが湧いてくる深い物語でした。
最後まで読んでくださってありがとうございます。