ふくみみdiary

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「ポプラの秋」湯本香樹実(新潮文庫)〜死を受け入れるために

湯本さんは音楽大学を卒業されて、オペラの台本やラジオ劇なども書かれている作家です。「夏の庭」を読んでとても感動したので、「ポプラの秋」も読んでみました。

200ページほどの作品なので一気に読みました。

湯本さんの感性、観察眼の素晴らしさと表現力で、情景がありありと浮かんできます。秋の少し儚げだけれど優しい光、澄んだ空気の匂いまで感じるようでした。読み終わった後、すがすがしくとても気持ちよかったです。

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父親を突然亡くした7歳の千秋。それまでの家から大きなポプラの木のあるポプラ荘に引っ越すが、大家のおばあさんが不気味でちょっと怖い。父親の死もまだ受け入れられず、新しい学校にも馴染めない千秋は熱を出してしまう。仕事をしている母親に代わって、千秋を見てくれることになったのは大家のおばあさん。おばあさんは「あの世に手紙を届けるお役目」の秘密を千秋に話す。

大家のおばあさんをちょっと不気味に感じてはいても、千秋という子供の目を通して描かれるあばあさんはとてもユーモラスです。ほほえましくもあり、頼りがいもある、とても愛すべきキャラクターです。

7歳の千秋は突然亡くなった父親の死を良く理解できず、またどう気持ちを整理していいのかも分からない。でもギリギリのところで踏ん張っている千秋の心をおばあさんは分かっていたんですね。でもだからと言って、妙にべたべた世話をやいたり、無責任に慰めたりはしません。その絶妙な距離感がすごくいい。こうあるべきだとつくづく感心しました。

千秋はおばあさんの「お役目」の話を聞いて、父親に手紙を書きます。何通も。
そうしていくうちにだんだん父親の死を受け入れられるようになり、そして心が癒されていきます。

身近で大切な人の死に対したとき、空虚で、混乱して、傷ついた心を整理する方法の一つが「書く」という事だと教えられました。

大切な人、家族の死は本当に辛いです。心は整理がつかず何がなんだか分からない状態なのに時間だけは無情にも着実に過ぎて行って、季節が変わって風景が変わっていく。

そのことが訳もなく空しくて悲しい。気持ちが切り替わるどころか、自分だけが取り残されたような気分。

話したくても話すことはもう出来ない。お礼も言いたいし、今の気持ちを伝えたいのにどうにもならない。

そんなときに「(逝った人に)手紙を届けてあげる」と言われたら・・・

おばあさんは千秋だけでなく、たくさんの人から手紙を預かっていました。たくさんの人の悲しみを受け止めていました。

懐かしいような温かい人間関係にもほっこりして、少し笑って、泣いて、感動して・・・何より読後感の素晴らしい作品でした。

大切な人の死に直面した時は大人でさえも混乱します。それを子供が経験することを思うとゾッとしますが、それでも自分で乗り越えていかなければならないでしょう。

このおばあさんのように子供の心を元気づけ本当の意味で乗り越えられるように導くことが出来たら素晴らしいですね。

そういう大人でありたいです。

 

最後まで読んでくださってありがとうございます。

無理せず過ごしましょう。
では、また。